「ファッションが根付いていない蔵前に、新しい業界をつくりたいんです」
そう語ってくれたのは、ファッションのイメージがない蔵前に2017年12月にオープンした洋服屋「木宮商店」の店主 木宮隆佐さん。
ご自身の経験から感じた「販売員の地位の低さ」という業界の問題を変えるために、新しく業界をつくり、変革を起こそうと考えている木宮さんに、思いを語っていただきました。
洋服が好きでアパレル業界へ。そこで感じた「販売員の地位の低さ」
――本日はよろしくお願いいたします。まずは木宮さんのご経歴を伺いたいのですが、ずっとアパレルでお仕事をされていたんでしょうか。
はい。洋服が好きで、大学の時にアルバイトをしていたメンズブランドにそのまま就職して、それからずっとアパレル業界で働いています。
販売の仕事は6〜7年やっていたのですが、その後、アパレルのコンサルティング会社に転職して2年ほど働いてから、木宮商店を立ち上げました。
――はじめにコンサルティング会社に転職されたのは、何かきっかけがあったんですか。
店長業をずっとやっていましたが、30歳を目前にしても、給料はずっと変わらずに15万〜18万円のままでした。
そのことに違和感を覚えて、当時の会社の社長に話をしたところ、「給料=仕事の責任だからね」と言われたのがきっかけですね。
店頭で商品の魅力を直接お客様に伝えることができるのは、販売員だけ。
自分としては責任のある仕事だと考えていましたが、その言葉を言われて、「販売員の責任は軽いと思われているということか?」と、納得がいかなくて。
販売の仕事は好きでしたが、結婚を控えていたこともあり、このまま販売員として働き続けるのは厳しいなと感じて、アパレルのコンサルティング会社に転職をしました。
――それで、2年ほどコンサルで勤務されたあとに「木宮商店」をオープンされたんですね。これはどういった理由からですか。
やはり自分が現場に立ちたいという気持ちと、コンサルとして店舗に接客や売り場づくりのアドバイスをしていく中で、「現場の声が上に通りにくい」という業界の課題を感じた、というのがあります。
いろんな会社にコンサルに入りましたが、どこの会社も決定権は本社にあり、一番現場を理解しているはずの販売員の意見がなかなか上に通らない。
そこもやはり、ファッション業界において、販売員の評価が低いのが根本的な原因なんじゃないか、と感じて。
そこで、「販売員の地位を向上したい」という思いから、「木宮商店」をつくったんです。
「販売員は寿命の短い職種」という概念を変えたい
――お店をつくることと、「販売員の地位向上」が、いまひとつむすびつかないのですが……具体的にはどういったことをされるんでしょうか。
販売員を育てること、そしてここ蔵前で、新しい業界をつくること。
この二つに取り組みたいと考えています。
まずはその第一歩として、自分で販売員を育てることができる「場」をつくろうと考え、木宮商店をつくりました。店舗は今後、増やしていく予定です。
――新しい業界をつくるというのは?
「販売員」を、販売員としてずっと働いていくビジョンをもって働ける職種にしたいんです。
そのためには、すでに出来上がっている業界をアップデートするよりも、ファッションが根付いていない場所に洋服屋をオープンして、そこに新しい業界をつくってしまったほうが早いと思ったので、ここ蔵前を選びました。
アパレルの販売員は、基本的には寿命が短い職種で、何年か販売を経験したあとは、本社に行くか、ほかの仕事にうつってしまう人がほとんどです。
ずっと販売員の仕事をしたい人にとっては、キャリアパスを描きにくいんですよね。
販売の現場が好きな人を、きちんと付加価値を提供できる人材に育成すること。
そして販売員を、もっと将来のビジョンを描ける職種にしていきたい。
販売員を目指したい人が増える業界になるといいと思っています。
――将来のビジョンというのは、自分のお店を持つことだとか……?
それもありますが、小売業自体を、革新したいと考えています。
物を届けて終わりではなくて、購入後の服の価値を育成できる場を提供できるのが、新しい販売員なのかな、と最近考えているところです。
ただ、購入後のアプローチ、というのが難しいところで……。
場づくりやコミュニティの形成など、いろいろと模索しながら、ワークショップなどの新しい取り組みもおこなっています。
――メイクやキャンドルアートのワークショップですよね。Instagramで拝見しました。洋服屋さんでこういったイベントをやるのは珍しいですよね。
洋服屋でも、服を売る以外にこんなことをやっていいんだよ、というのをお客様に見てもらいたくて、ワークショップを行っています。
ワークショップの開催はInstagramで告知をしているので、ぜひいろんな方に来ていただきたいですね。
直近(9/30)のキャンドルアートワークショップ
モノづくりの土壌がある蔵前からイノベーションを起こしたい
――先ほど、新しい業界をつくるためにファッションが根付いていない場所を選んだとのことでしたが、その中でも蔵前を選んだ理由はなんですか。
蔵前はモノづくりの土壌がしっかりしていて、クリエイターや職人さんがやっている店も多いので、ここならイノベーションが起こりやすいのでは、と思ったのがまずあります。
台東区のクリエイター支援施設「台東デザイナーズビレッジ」卒業生のブランド「POTTENBURN TOHKII」のヘアバンド
壁の絵は、東東京を中心に活動されているヒロ・ヤタベさんの作品
あとは、浅草のすぐ近くだというのも理由のひとつです。
浅草はいつ行っても人が多いですが、そこから1kmほどの蔵前になると、途端に人がいなくなるんです。
都内でもあれだけの人が集まる場所はそうないので、浅草にいる人たちを、もっとこちらに引っ張ってくることができたらいいなと思っています。
「木宮商店」が目指すところ
――木宮商店は、ファッション業界においてどういった立ち位置を目指されているんでしょうか。
「コム デ ギャルソン」や「ヨウジヤマモト」ではなくて、「ユニクロ」や「ZOZOタウン」のような存在でいたい、と思っています。
--ファッションに詳しくない人にとっては、ハイブランドの販売店には入りにくい場所だと思いますが、そういう人も来られる場所にしたいということですか?(編集長)
そのとおりです。買い物とかのついででもいいので、気軽に立ち寄れる場所にしたいですね。
こちらは子供服。ファミリー層が多い蔵前に合わせて、キッズ・レディースのみの取り扱いにしているそうです
――今後考えている新しい取り組みなどはありますか。
若手ブランドのクリエイターが、ビジネスを学べる場所にもしていきたいと考えています。
クリエイターが製品をつくる場合、工場とのつながりがない、資金や売り場がない、といったハードルがあります。
うちは工場とつながっているので、縫製工賃はこちらで持って、販売もうちのお店で、というようなサポートができたらいいんじゃないかなと。
「服を売る」以外にも、いろいろな新しいことを仕掛けていって、東京の東側に新しいファッション業界をつくっていきたいと考えています。
――木宮さん、ありがとうございました!
終わりに
「みんな最初は、好きなことを仕事にしたいと思って、アパレル業界に入ります。でも業界を離れるとき、大半の人は嫌になってやめてしまう。そこを変えたいんです」
そう語る木宮さん自身も、アパレル業界で働く中で色々なフラストレーションを感じてきた一人。
そこに向き合い、販売員の概念を変えるために新しく業界をつくろうとする木宮さんの原動力はやはり「洋服が好き」というところにあるのだと思います。
東京のブルックリンとも呼ばれ、おしゃれなお店も増えている蔵前は、休日にふらりと街あるきするのにもぴったりな場所です。
ぜひ木宮商店さんに足を運んでみてください!
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この記事を書いた人
中村 英里
浅草生まれ浅草育ち。
Webデザイン、ディレクター、広報等を経てライター に。
好きなもの:Web/IT・スタートアップ・下町・純喫茶などレトロなもの
Twitter:@2erire7