武田優子・田中惇之主演の舞台『宮城野』が、7月14〜16日浅草にある茶寮「一松」にて開催されました。

 

取材にお伺いしたこの日は、初日とのこともあり、約50席ある客席が満席状態。立ち見で観劇を楽しむファンもいらっしゃったのです。

 

 

受付前にはスタンド花や、プレゼントなどもたくさん。今回主演とプロデュースを務める武田さんの人望の厚さが伺えました。

 

 

さて、舞台は2人が登場している中、チェロと琴による演奏からスタート。生演奏は約5分間続くのですが、通常の舞台では感じられないような緊張感が音色に乗せられており、お客様の背筋もピンと伸びていく様子が印象的でした。

 

 

そして、武田さんの柏手により会場は暗転。挙動不審な矢太郎に、宮城野がはつらつとした声で「どうしたの？」との声をかけ、本編がスタート。

 

 

物語の中での宮城野は、はつらつとした笑顔や元気さが印象的で、男性を引っ張っていくような頼もしさもある女性。そんな宮城野の着物の赤、そしてそれを際立たせるような赤いシャドウが印象的であった。赤いシャドウだからこそ、強く芯のある宮城野がたまに見せる切なさを助長させていたように思える。

 

 

物語が大きく動くのは、どこか様子のおかしい矢太郎が宮城野と話していく中で、宮城野の絵をかかせてほしいというシーンだ。このシーンで、矢太郎は絵を描くために宮城野の顔や体に触れる。

 

 

「どうせ俺は、東洲斎写楽の模写をする偽絵師だ」と自分自身を卑下する矢太郎だが、果たして偽絵師がここまで人の細部にこだわり、立体感のある絵を描こうとするだろうか。そんなことを想像すると、矢太郎の人生は、また辛く寂しい、儚いものだ。

 

さて、一方の宮城野だが、矢太郎に明るく元気にふるまうも、その人生は辛いものだ。あまりにも自己犠牲の精神を強く持ちすぎている。なぜここまで自分を苦しめながら生きていくのか理解できないほどに、過酷な人生だという印象を受けた。おそらく日本の演劇、歌舞伎や能の中にも見える「情」とかそういうところの美徳を表現しているのかもしれない。

 

 

だけど、「誰かのために」といつも犠牲になり、誰かの幸せを願うも、その誰かに裏切られる、そんな彼女があまりにも可哀想で見ていられなかった。

 

 

舞台のクライマックス、宮城野は矢太郎の罪をかぶり「私が東洲斎写楽を殺した」と叫ぶ。そして宮城野のいる部屋の扉が開き覚悟を決めるが、扉を開けたのは警察ではなく客だった。

 

 

その客を見て、宮城野は「よかった～もう少し稼ぎたかったの！」と笑顔で振る舞う。そして、散々な別れ方をした矢太郎の絵を客に見せ「これ、写楽先生の本物の絵よ！」と矢太郎が今後裕福に生きていけるよう話をし、幕を閉じる。

 

 

災害の中で生き残ったから、誰かのために生きたいという気持ちは理解できなくはない。しかし、警察に捕まろうと、捕まらずに女郎でい続けようと、きっとこの先、これ以上宮城野は幸せになれないような終わりであった。

 

 

この舞台が始まる前のインタビューで、矢太郎役の田中さんは、宮城野を演じる武田さんのことを「人間としても、演者としても尊敬できるバケモノのような女優」と言っていた。今なら、その意味がわかる。きっと変幻自在に、切なさと力強さを表現できる武田さんだからこそ、宮城野は演じられたのだろう。

 

 

また、毒と色気を持ち合わせながら、その中に温かさのある田中さんだからこそ、いわゆる"クズ"で女々しいけど、愛される要素を持った矢太郎になれたのだ。

 

 

「舞台『宮城野』、3日間5ステージ無事終演いたしました。当初、1ステージ50人キャパで考えていたのですが、ありがたいことに、毎回立ち見も出まして、計306人ものお客様にご観劇いただきました。」

「浅草に住んで10年。念願の初プロデュース公演を愛する浅草で打つことができ、お客様はもちろん、場所を提供してくださった「一松」さん、チラシを快く貼ってくださった近隣の飲食店の皆様、演出・共演者・スタッフさん。今回の舞台に共犯してくださった全ての方たちに、一生感謝いたします。ありがとうございました。たくさんの人のあたたかさに触れて、浅草がまた大好きになりました。これからも面白い企画を、浅草で企んでいけたらと思います！」